税理士試験シリーズ「簿記論」。
第4回は、前回に引き続き、「有価証券」の処理を取り上げます。
「その他有価証券」の期末評価は、少し独特でとっつきにくい印象がありますが、
場合ごとに整理してみれば、意外と平易な内容です!
さっそく、始めていきましょう。
その他有価証券の期末評価は「時価」
その他有価証券の期末評価は、前回で確認したとおり、「時価」です。
時価評価といえば、売買目的有価証券のように、
「有価証券評価損益」や「有価証券運用損益」といった勘定を使って損益を計上する
という方法がまず思い浮かぶことでしょう。
その他有価証券の時価評価では、上記の方法と異なり
帳簿価額と時価の差額があっても「損益」を計上しない
という点が大きなポイント。
では、差額はどこに計上するのか?というと
「その他有価証券評価差額金」勘定を使って、「純資産」の部に直接計上します。
この時価評価の方法を、「全部純資産直入法」といいます。
全部純資産直入法による時価評価
全部純資産直入法による仕訳は、次のとおりです。
ただし、【ポイント】のとおり、税効果会計の適用の有無に注意する必要があります。
(問題を解くときは、問題文の指示に気を付けましょう)
(仕訳例)その他有価証券に評価差益が生じているとき(税効果会計を考慮しない場合)
借 方 | 貸 方 |
投資有価証券 ××円 | その他有価証券評価差額金 ××円 |
【ポイント】税効果会計の適用
その他有価証券の期末評価は
会計基準では「時価」である一方、
税務上は「取得原価」または「定額法による償却原価」です。
このため、税効果会計を適用する必要があります。
税効果会計によって、その他有価証券評価差額金のうち、法定実効税率にかかる部分は
「繰延税金負債」または「繰延税金資産」を計上します。
全部純資産直入法では損益を計上しないため、当期の法人税額に影響はないので
法人税等調整額は計上しない点を押さえておきましょう。
税効果会計を適用したときの全部純資産直入法による仕訳は、次のとおりです。
(仕訳例1)その他有価証券に評価差益100円が生じているとき(法定実効税率40%)
借 方 | 貸 方 |
投資有価証券 100円 | その他有価証券評価差額金 60円 |
繰延税金負債 40円 |
(仕訳例2)その他有価証券に評価差損100円が生じているとき(法定実効税率40%)
借 方 | 貸 方 |
その他有価証券評価差額金 60円 | 投資有価証券 100円 |
繰延税金資産 40円 |
部分純資産直入法による時価評価
部分純資産直入法とは、
時価評価による評価差益が出ているときは、全部純資産直入法と同様に
「その他有価証券評価差額金」勘定を使って「純資産」の部に直接計上し
時価評価による評価差損が出ているときは
「投資有価証券評価損益」勘定を使って損益を計上する
という方法です。
部分純資産直入法による仕訳は、次のとおりです。
(仕訳例)その他有価証券に評価差損が生じているとき(税効果会計を考慮しない場合)
借 方 | 貸 方 |
投資有価証券評価損益 ××円 | 投資有価証券 ××円 |
【ポイント】税効果会計の適用
部分純資産直入法によって評価差損を処理したときは、損益の計上が当期の法人税額に影響します。
したがって、税効果会計を適用する場合は、法人税等調整額を計上します。
税効果会計を適用したときの部分純資産直入法による仕訳は、次のとおりです。
(仕訳例)その他有価証券に評価差損100円が生じているとき(法定実効税率40%)
借 方 | 貸 方 |
その他有価証券評価損益 100円 | 投資有価証券 100円 |
繰延税金資産 40円 | 法人税等調整額 40円 |
翌期首の処理
翌期首には、評価差額について、洗替法による振戻し処理を行ないます。
部分純資産直入法で評価差損を計上した場合は、差額部分についてのみ、翌期首に振戻しを行ないます。
(上記の例の「その他有価証券評価損益」100円と、「投資有価証券」100円を反対仕訳)
「繰延税金資産」と「法人税等調整額」の処理は、問題文に指示があったときに行ないます。
(上記の例の「繰延税金資産」40円と、「法人税等調整額」40円)
まとめ
以上をまとめると、
・その他有価証券の期末処理は「時価」で行なう
・時価評価の方法は、「全部純資産直入法」と「部分純資産直入法」の2つがある
・評価差額は、基本的に「その他有価証券評価差額金」(純資産)勘定で処理するが、
・部分純資産直入法で評価差損があるときだけ「投資有価証券評価損益」勘定を使い、損益を計上
・税効果会計の適用にあたっては、部分純資産直入法で評価差損があるときだけ「繰延税金資産」または「繰延税金負債」の相手勘定として「法人税等調整額」を計上
・それ以外は、その他有価証券評価差額金のうち法定実効税率にかかる部分を「繰延税金資産」または「繰延税金負債」として処理
となります。
おわりに
いかがでしたか?
「部分純資産直入法で評価差損のときだけ、他と処理が違う」
と覚えておくと、頭の中を整理しやすいかもしれません。
理解するところと暗記するところを明確に分けてみるというのも、ひとつの方法です。
つまづきそうな場面でも、決して諦めずに、こつこつとやっていきましょう~。
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